スルッとKANSAIおでかけ情報誌 Asobon!web

町のお店をこよなく愛するみなさんにお気に入りの一軒を紹介してもらいました。

カステラ ド パウロ

15軒目

  • 京都市上京区
  • 京福電車 京都市営バス

「おいしさ」を追い続けるポルトガル菓子店

昔から、カステラが好きだった。
デコレーションケーキのように目を惹く華やかさはないけれど、いつも変わらない素朴な佇まいを見ると安心した。
茶色と黄色のシンプルな色合い、すっきりとした四角形、そして、卵と砂糖の滋養のある味わい。素朴で美しいこのお菓子が、わたしはとても好きだ。

だから北野天満宮のすぐ横に『カステラ ド パウロ』というポルトガル菓子専門のお店があると知ったとき、すぐに「行ってみたい」と思った。
酒蔵を改造した店内で甘い匂いをかぎながら、「食文化比較体験プレート」というものを注文する。
それはパォンデローというカステラの原型と言われているポルトガル菓子3種と、お馴染みの長崎カステラが載せられたプレートなのだけど、それらを食べたときわたしはあまりのおいしさに本当に感動してしまった。
それからわたしは、すっかりこのお店のファンなのだ。

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こちらが食文化比較体験プレート(700円)、容器に入ったものから右回りに、ベイラリトラル地方のパォンデロー、エストレマデゥーラ・リバテージョ地方のパォンデロー、カステラ、ミーニョ地方のパォンデロー。

このお店は、ポルトカル人パティシエのパウロさんと、パートナーの智子さんが中心となって切り盛りしている。
この記事を書くために改めて取材にうかがったとき、智子さんに「パウロさんはどんな方なんですか」と尋ねると、智子さんは、「本当にストイック! とても負けず嫌いだしね」と力を込めて言った。

「日本では珍しいパォンデローだけを商品にしてもいいのに、日本が本場だからこそカステラでも勝負したいって言って聞かないんですよ。彼は12歳の頃からポルトガルでお菓子作りをしていて、長崎でカステラ作りの修行をしたこともあるんですけど、今でもずっと『もっとおいしくするにはどうしたらいいのか』って考え続けているんです」

そう言って智子さんは、厨房に目をやる。その視線の先を見ると、パウロさんがきびきびと無駄のない動きで働いている。よほど集中しているのだろう。わたしたちがガラス窓越しにじっと見ていても、まったく目に入ってないかのようだった。

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取材時にちょうど焼きあがった大きいサイズのポルトガル最北部ミーニョ地方のパォンデロー。ポートワインやクリーミーなチーズとともに食べても美味なのだとか。

「だから、こんなにおいしいんですね」
プレートに手を伸ばして頬張りながら、わたしは言った。
「初めて食べたとき、すごく感動しましたもん」

すると智子さんが、「4種類の中でどれが一番おいしかった?」と言う。
わたしはそれに対し、「カステラです」と即答した。
「初めて食べたパォンデローも、もちろんとてもおいしかったです。だけど、カステラを食べたときは本当に驚きました。きっと、幼い頃からずっと食べてきたお菓子だからこそなんでしょうね」

そして本心から、「これまで食べた中で、一番おいしいカステラでした」と言った。
すると、智子さんは目を輝かせて「本当!」と手を合わせた。

嬉しそうに笑う様子が少女のようで、なんだかわたしは、12歳のころのパウロさんのことを想像してしまう。
多分、このふたりはずっと初心のままでいるのだろう。おいしいお菓子を作りたい、そしてそれを届けたい。
そんなふたりの気持ちが両輪となって、今も錆び付かないまま回り続けている。

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2階にもイートインスペースがあり、ポルトガルの民族衣装の展示や関連書なども多数。また、ランチプレートも日替わりデザート付きで1,200円で提供(11:00〜16:30)。

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レジ前にあるショーケースには、カステラ以外にもシンプルなお菓子が並ぶ。

取材を終え帰ろうとすると、智子さんが厨房にいるパウロさんを呼んだ。三人で一緒に記念撮影をしましょう、と言う。
パウロさんはにこやかに挨拶してくれたけれど、神経だけは厨房にずっとあるようで、その様子がまた彼らしいのだろうなと思った。
そんな彼の袖をぎゅっと握りながら、智子さんはわたしに振り向いてこう言った。

「ねえ、さっきのもう一度、彼に言ってあげてちょうだい」

わたしは「もちろんです」と答え、もう一度言った。
「これまで食べた中で、一番おいしいカステラでした」

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Data

カステラ ド パウロHP

カステラ ド パウロ
交通
京福電車 北野白梅町駅下車徒歩約5分
京都市営バス 北野天満宮前停下車すぐ
住所
京都市上京区御前通り今小路上がる馬喰町897蔵A
電話
075-748-0505
営業時間
9:30〜18:00
喫茶 9:30〜17:00(16:30L.O.)
定休日
水曜、第3木曜(第2木曜の月もあり)
※毎月25日が水曜の場合は営業、翌日休
※水・祝の場合は営業、翌日休
※夏季休業 6月26日〜2週間
※年末休業12月26日〜30日

著者プロフィール

土門蘭(どもん・らん)/小説家

京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(京都文鳥社)。今夏、『経営者の孤独』(ポプラ社)と『戦争と五人の女』(京都文鳥社)を刊行予定。