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社局のお仕事

第11回 叡山電車 新しい観光列車「ひえい」のお仕事

  • 叡山電車

通勤、通学、おでかけと日々使う電車にバス。毎日のように使っているけど詳しくは知らない、そんな交通機関の知られざる舞台裏のお仕事をお伝えするこのコーナー。第11回は、叡山電車の新しい観光列車「ひえい」開発に関連するお仕事を紹介します。叡山電車と言えば、約20年前にデビューした展望列車「きらら」ほか、電車内を使ったイベント、また、「ひえい」のデビューに際しては、マルシェイベントを八瀬比叡山口駅のホームやイベントスペースで開催するなど他に類を見ない鉄道という印象。「ひえい」の開発に向けて、どんな苦労や醍醐味があったのか、営業課の中西喜芳さんと技術課の金丸慎二さんにお聞きしました。

----お二人は叡山電車に何年くらいお勤めなのでしょうか?

中西さん「私は16年くらいです」

金丸さん「私は、京阪電車からの出向で、3年くらいですね」

----京阪電車からの出向の方もいらっしゃるんですね。

中西さん「そうですね。結構いらっしゃいます」

2018_0625_0099.jpgお話を聞いた中西さん(写真左)と金丸さん(写真右)。ちなみに金丸さんの左ポケットに貼られているバッジのKYは、危険予知のKY。

----お二人は、この度デビューした「ひえい」に、開発当初から関わっておられたんでしょうか?

中西さん「私が現在の部署に異動になったときには、もうすでに八瀬比叡山口への観光列車を作るという計画はありました」

金丸さん「私も作るというのが決まってから、こちらにまいりました」

----なるほど。ということは、もう「ひえい」という名前も決まった頃にやってこられたんでしょうか?

中西さん「いえ。デザイナーさんが描いた大まかなデザインパースはありましたが、具体的なことはまだ全然決まっていませんでした」

----それから、どのようなプロセスで車両が出来上がって行ったのでしょうか?

金丸さん「車両の方向性が決まってからは、車両のデザイナーさんと車両メーカーさんを交えてより詳細にデザインしてもらう。そんなところからです」

2018_0313_0473.jpgこの丸型のラインが特徴的。中央に配されている「ひえい」のロゴマークは、大地から放出される気のパワーと灯火を表現したもの。

----デザインを見る前には、どのような列車になると思われていましたか?

中西さん「そうですね。やはり、観光列車ですし、叡山電車には、パノラマの"きらら"という鞍馬方面に向かう観光列車がありますので、パノラマかなぁとか、そういう想像はしていました」

----でも全く違う車両になったわけですね。

金丸さん「普通の電車じゃ物足らないというか、やはり見た目のインパクトというのがないと、ということで3つの案があったのですが、あのデザインに決まりましたね」

中西さん「はっきりとは聞いていませんが、デザイナーさんもあのデザインに一番力が入っていたのではないかと思います」

----確かに、斬新です。このデザインにしようとなったのは、完成のどのくらい前に?

金丸さん「2年半くらい前だと思います」

中西さん「デザインを決めるのにそれほど時間がかかったわけではありませんが、作って行く段階がやはり一番時間がかかったと思います」

----車両担当的には、こんな斬新なデザインで最初はどういう反応だったのですか?

金丸さん「最初は、これどうやって作るの? ってみんな思っていたと思います。でも、深く考えませんでした」

----(笑) なんとかなるのじゃないか、と?

金丸さん「あとのことを考えるよりも、一番インパクトのあるものを選ぼうと。どうやってやるかは、みんなで考えればいいと思ったんです」

----それが決まった後は、どういうことをするのでしょう?

金丸さん「内装のパースなどを見せていろんな車両メーカーにこんな電車作れるのかどうかを相談したり、見積もりをとったり、そういう流れです」

2018_0313_0510.jpgラグジュアリーな雰囲気漂う車内からの景色。パノラマの「きらら」とは全く違う方向性が、より一層、車内の雰囲気を引き立たせています。

----そのあとは?

中西さん「もともと、この車両は新しく作ったわけではなく、改修をしました。古い車両を新しくしています。それも苦労したところの一つなんですが、それを使ってどうやってデザインを再現するのか、それを考えてもらうということを次にやっていきました」

金丸さん「また、この車両を作るときには、模型を作って確認するのではなく、3Dグラフィックでその姿を見てどうなっているのかを各所確認できる形になっていました」

----それを見て、何か変更したり、車両担当的に注意して見た部分というのはありましたか?

金丸さん「もともとデザイン時は、車体部分の前面にスカート(排障装置)はなかったんです。でも、何かあった時のために保護することで危険もなくなるということもあり、つけてもらいました」

中西さん「このスカートがつくことで、中の部品と接触しないかというのは、3Dを見ながらよく議論されていましたよね」

金丸さん「台車も新しくしたので、その辺との調整もありました。台車自体も動くので、擦れないか、当たらないかというのはよく見ました。図面を作るとそれを3Dにしてくれるのですが、その3Dを見て、隙間が何ミリあるのかなどを計測して、改良を重ねていきました」

----この作業に入られたのがいつ頃の話になりますか?

金丸さん「2年くらい前です」

----なるほど。それまでは、図面と3Dグラフィックでのやりとりなんですね。

金丸さん「他にデザイン的なところで言うと、上下2灯のヘッドライトというのもなかなかないですね。一般的には左右に配置されていることが多いです。決まりとしてあるのが、左右対称につけてないといけないということなんですが、あまり上下におくということをしたことがなく」

----法令で決まっているわけですか?

金丸さん「はい。決まっています」

----やはり安全などの点を考慮して、たくさん決まりごとはあるんでしょうね。

金丸さん「他にも標識灯(尾灯)なんですが、ランプみたいについているんですが最近の流れで言うと、全体的にフラットに光るタイプが多いんですが、こちらは、電球一つひとつの光がわかるように点灯するんです。最初は、拡散板などで光が平らに見えるものが普通と思っていましたが、出来上がってみると他にはないので、いいなと思いました」

----確かに、こういうデザインはあまり見ない気がします。

金丸さん「内装では、スタンションポール(座席の端にある立席用つかみ棒)の形も外の丸に合わせて、内側に凹んでいて、二重にすることによって強度もあり、この形にすることで車内も広く感じるんですね。この車体の壁の厚みはもともと90ミリだったんです。でも、改良のために120ミリになって実質60ミリ車内が狭くなったのですが、この形にすることで広々と見えるわけです。他のところも出っ張りを少なくフラットにして、広く見せる工夫をしています」

2018_0308_0194.jpgこちらが話にも出ている車内の様子。視覚的に遮られるものがなく、広々とした印象。天井からのダウンライトもLEDに変更し、電球色を使用しているためゆったりとした時間を過ごせるような工夫も。

金丸さん「楕円を入れることによって、座席幅も決まってゆったり目の席を作ることができました。あとは、座面にかなり工夫がありまして」

中西さん「座席の奥行きが、結構あるんです。そうすると立つスペースが狭くなるのではないかという懸念があったのですが、足が組みにくい角度の椅子かつ、奥行きがあるので結果的に正しい姿勢で座り、立つスペースが保たれています」

金丸さん「実際、すでにこの座席を使用している鉄道会社がありまして、その実績で正しい姿勢になるというのがあったんです」

中西さん「これは模型を作って確認したのですが、実際に座ってみると足が組みにくかったんです」

----そうなんですね。人間工学的な観点から決められたこともあるんですね。それにしても、はじめに言われていた、いわゆる観光列車とは全然異なるものができましたね(笑)

金丸さん「そうですね。最初は、観光列車なので、クロスシート(進行方向に向いたシート)で、用途に応じてロングシート(横一列の座席)に変化できるものを、と考えていましたし、考えがすごく変わりました。出来上がってからは、楕円から眺める景色もいいよねって言うようになって(笑)」

----そんな「ひえい」は、毎日どの程度走っているんでしょう?

中西さん「平日は、19往復。土曜・休日は、12往復です。火曜日は洗車の日としており運転はしていません」

2018_0625_0217.jpg「ひえい」の点検・整備を行っている修学院車庫。夜間出町柳駅に留置きの2編成以外はこの車庫から毎日出発する。ちなみに、火曜日の「ひえい」の洗車は洗車機を通さず手作業で行われている。

----平日の方が多いんですね。

中西さん「そうなんです。ラッシュ時も走っているため、通勤は毎日、"ひえい"というお客さまもいらっしゃるのではないかと思います」

----それは優雅というか、いいですね。この車両は先ほど、古い車両を使って作ったとおっしゃっていましたが、もともとのものは、何年に作られたのでしょう?

中西さん「1988年製です。電車は30年経てばどうしても傷みが出てくるので、それを改修する頃でもあったんです」

金丸さん「これは80年代にできた1両編成の車両の中でも一番新しいものになりますが、ちょうどこの車両が定期検査に入る頃というのもありまして、この車両になりました」

----ところで、改修してあの形になったということですが、「ひえい」はどの程度の改修なのでしょうか?

金丸さん「もともとの骨組みは、88年のものなんですが、腐食している部分などの補強はかなりやっています。その上で、強度を高めたり、台車は京阪電車の中古のものを使って、金属バネ台車から空気バネ台車になっています」

中西さん「そもそも88年の時点で、その時も車体は新しくしたものの、中古品を流用して作っているんです。だから、そこでも新車ではなくて、それをまた今回も同じように、古いパーツをもらったりしながら、今の技術に近づけています」

IMG_5455.jpg車両前面の上下についている付属物は、LEDライト。初の試みだったため、上下2灯に配置されたLEDヘッドライトで照射範囲や明るさに問題がないか等の確認を入念にテストされた。

IMG_2065.jpg形状が変わる窓は実物大の木型を用意して確認した。
「ひえい」の丸い窓は古い車体の窓枠一つに対して2つあり、上半分が降りて開くようなつくりだったのが、1枚のガラスに変更となった。

----へぇ、そんな歴史があるんですね。ここまで改修しても新車よりもやはりコスト的には、下がっているんでしょうか?

金丸さん「そうですね。断然」

2018_0308_0191.jpg窓の構造や壁の厚みなど、"静かな空間にしましょう"という目標があったわけではないけれど、結果的に車内が静かになったそう。

----なるほど。でも見た目は、完全に新車ですね。

中西さん「いろんな面において、一般的な新型車両の水準まで設備をあげることはできました。車椅子・ベビーカースペースもこれまではなかったので、このおかげで確保できたり。客室だけでなく、乗務員側の意見を取り入れて、改修した部分は多いです」

金丸さん「これまでは、発着の車内放送も毎回、乗務員のボタン操作でしたがそれを自動化したり、車内放送用のマイクが、運転士の便利な場所についてなかったのをつけたりしました。前照灯もLEDに変更したので、これで夜はだいぶ明るくなったと聞いています」

中西さん「ワイパーのつけ方も左右で別のつけ方をしているんです」

金丸さん「運転士側は、上下に動くように下についていて。運転士と反対側は左右に動き少し高い位置についていたり。それで、添乗者(運転士の横に立って乗る者)も体勢を変えずとも見やすい設計になっています」

2018_0625_0271.jpg前面の円の外側はデザインの段階では、ガラスではなかったそう。しかし、視界確保の観点から、ガラスになり、ワイパーの付け方にも工夫がされて、前照灯もLEDになり、これまで以上に見やすくなった。

----いろいろと改善されたところが多くありますね。そんな中で、苦労したことはなんですか?

金丸さん「一番の苦労は、近畿運輸局に図面が出来上がったら持って行くんですが、それが変わるたびに報告をして、1回で終わるわけがないんです。当初は春デビューということで動いていましたが、比叡山のシャトルバスなどが運転再開する今年の3月21日ということが決まってしまい、そこからはもう大変でした。出すのは早ければ早いほどいいんですが、出し始めたのが1月で」

----デビューまで3ヶ月しかないじゃないですか!

金丸さん「そうなんですよ。逆算すると試運転が2月からしないといけなかったので、それすら走らせられない、では済まないのでかなり焦りました(笑)」

----それでもなんとかやりきって、間に合わせたわけですね。現在、実際に走っているのを見ていかがですか?

中西さん「製作途中で度々検査があるんですが、ある時初めて色の塗られた状態を見たんです。塗られていないものなど途中経過は結構見てきているし、最初のデザインの頃は、ただただびっくりするだけだったのが、ちゃんと仕上げに近づいてくるといいなぁと思いました」

----すでに完成した頃に喜びはやはりあったんですね。それでは最後に、これから乗られるお客さまに「ひえい」のここを見て欲しいなどあれば。

金丸さん「運転席の後ろのガラスを大きくして、子どもさんの目線でも広く見えるので、そこはちょっとした注目ポイントです。できるだけガラスを大きくして景色が良く見えるようにしていますので、子どもさんにはぜひ、かぶりついて見て欲しいですね(笑)」

2018_0308_0403.jpg一番前からは新しくなった運転台に加えて、運転士の仕事ぶりも良く見える。

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