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社局のお仕事

第21回 岡山電気軌道 電車の整備点検と清掃のお仕事

  • 岡山電気軌道

通勤、通学、おでかけと日々使う電車にバス。毎日のように使っているけど詳しくは知らない、そんな交通機関の知られざる舞台裏のお仕事をお伝えするこのコーナー。第21回は、関西から少し離れた岡山市内で路面電車を運行する岡山電気軌道。電車の整備・点検・清掃について、また本社横にあるミュージアムの話を電車事業本部の今村泰典さんにお聞きしました。

----今日はよろしくお願いいたします。まず、この事務所の場所なのですが、表にミュージアムがあってその次に、車庫、そのずっと奥に事務所と珍しい作りになっていますね。

今村さん「昭和58年(1983年)に本社がこちらに移りましたが、もともと大正時代からこちらの敷地内に工場がありました。現在は、おかでんミュージアムと事務所、工場が併設されています。道路沿いにおかでんミュージアムを作るにあたり、技術課の事務所を当時の位置から後方に移設したため、ご覧いただいたような形になったというわけです。そして、ミュージアム、工場とその奥に事務所がありますが、この事務所の場所はもともとモーターの巻線や分解をする場所でした。電工倉庫とその場所は呼ぶのですが、それがあったところに事務所を移設したというのが経緯です。」

----なるほど。当時とは全然様子が違いますね。

今村さん「はい。現在、おかでんミュージアムがある場所が本社で、その南側に技術課の事務所がありました。そして、その場所におかでんミュージアムができたのですが、おかでんミュージアムが現在の姿になるまでには、2回工事をしています。1回目の工事では、現在の半分くらいの大きさで、2回目の工事でようやく現在の形になりました。
つまり、拡張をしたのですが、拡張前はまだ技術課の事務所は昔からあった本社の南側にあったんです。2年ほど前に2回目の工事をし、現在の一番奥に設置される状態になりました。」

2019_0220_0800.jpgおかでんミュージアムの赤い建物の右手、車庫の奥へと来るとずっと奥まで車庫と工場が続いている。さらに奥が、事務所。
左手には和歌山で有名なたま駅長の車両の姿も。ちなみに、たま電車のデザイナーも岡山の人だそう。

----道路側を見てもわかりませんが、工場内もずいぶん変わっていったんですね。そして、この技術課の事務所には巻線工場があったということですが。

今村さん「巻線工場があった当時は、従業員が30~40人いました。現在は土木、保線関係、車両関係、電気関係合わせて11人がこちらで働いています。そのため、例えばモーターのちょっとした整備はしますが、線の巻替えとか、絶縁更新など手の込んだものは外注になっています。」

----工場を改修されるときに、社内でまかなうこととそれ以外との仕分けも同時にされていたということでしょうか。ちなみに、外注時はこちらに人が来られて作業をされるのでしょうか?

今村さん「いいえ、部品としてモーターを出しますので、こちらでは行いません。」

----軽微な作業をこちらで行い、複雑な作業を外注でまかなうということですが、現在、岡電さんは何台の車両を保有されていますでしょうか?

2019_0220_0465.jpg取材にご協力いただいた今村さん。岡山電気軌道一筋。

今村さん「全部で車両は25両あります。2連接が3両ありますので、そこで6両、そしてクーラー車両が17両、クーラーは付いていませんが、その昔 あの有名な日光東照宮の直ぐ近くを走っていた3000形と呼ばれる貴重な車両が2両。それを全て合わせて25両となります。」

----その中で一番古い車両というとどちらになりますでしょうか?

今村さん「昭和28年製(1953年)の日光線(栃木県の東武日光軌道線)を走っていた車両が一番古いものになります。1両が"KURO"と呼ばれていまして、電車やバスなどのデザインでも有名なインダストリアルデザイナー・水戸岡鋭治さんのデザインです。ちなみにこの3000形ですが、夏の期間は避けて月に1回土曜日に2往復ほど運行しています。」

----そして、一番新しいのがチャギントンの車両でしょうか?

今村さん「そうですね、昨年の10月23日に納車しました。」

----人気のキャラクターですね。チャギントンの車両はどういう経緯で走るようになったんでしょうか?

今村さん「まず、私の所属する運輸交通業は人を輸送するというのが仕事なのですが、乗車すること自体が目的になるような、そういう夢のある乗り物ができたらという当時の副社長の長年の思いがありました。子どもが喜び、それに乗りに来る電車というのはどういったものか、その実現に向けて考えたわけです。
そして、いろんなアイデアを出していく中で、チャギントンのアイデアが出てきました。それがいいんじゃないかとなったのですが、最初は路面電車として走れるかという心配がありました。
最初の検討事項としては、在来の電車を改造しようかということで悩みましたが、車両規制が昔よりも厳しくなっていて、改造に伴ってさまざまな装置が必要だということになり、ほかにも追加の項目が多く改造で作るのは難しいだろうということで、新車両でいくことになりました。
特に私たちが使用している7000型など、昔の電車の部品をオーバーホール(部品単位まで分解して清掃・再組み立てを行う)して作った車両なのでコントローラーにしてもモーターにしても、古い車両のものなのです。電車というのは、いったん作りますとバスと比べれば、50年60年長く使いますので、そこまでほんとに大丈夫かという疑問もあり、だから新しいほうがいいんじゃないかということになったんです。
新造車でいくにしても、既存の車両の中で9201号とか1011号などといったものと同等であれば、その車体を一部変えて作るという可能性があるんじゃないかと。そういう色々なことを考え出すと、新造車両だからといって自由な設計は難しいんです。なぜなら、郊外型の専用軌道を走る電車ですとホームがあるので、高くても低くてもバリアフリーですので成り立つんですけど、路面電車となるとどうしても床面を下げざるをえません。それを下げると、台車やモーターなど収めるところにイスがついたりして、案外自由に設計できるようでなかなかできないという苦労は、あったようです。」

2019_0220_0848.jpg人気アニメのチャギントンの車両。デザインは、水戸岡鋭治さん。法的規制とデザインの再現性など製作にあたってはかなりの苦労があったとのこと。写真はブルースター。 運行やミュージアムの詳細はこちら

----ここからは具体的な日々の仕事についてお聞きしたいのですが、簡易な点検や軽微な作業はこちらでされて、大きなことになると外注されるという流れは確認しましたが、清掃は営業終了後に毎日されるのでしょうか?

今村さん「現在、清掃については清掃担当者1名が入って行なっています。おおよそ1車両に対して1か月2回くらいのペースで車内外の清掃を行っています。」

2019_0220_0812.jpgクーラー車両と呼ばれる7000系。平成7年製(1995年)のものが今では一番新しい。ちなみに9200形は、平成14年(2002年)に登場。

----車両が変わってきたことで特殊な清掃など、清掃自体の変化はありますでしょうか?

今村さん「9200形のような超低床電車には水ワックスをかけて清掃を行っています。ほかにも、"KURO"やちょっと目立つようなものには水ワックスを使っています。また、外販広告をやっていますので、その車両の塗膜は薄く、こすると取れてしまいますので塗って流せば落ちるようにこれにも水ワックスを使っています。その水ワックスの製品についても、工場には排水処理の設備が整っていないので、薄めて流せば環境にも問題ないような製品を使っています。
以前は専属の担当者がおらず、土木担当の者が作業の合間を見て清掃をやっていました。月1回の清掃も難しいときがありましたが、今は担当を固定しておりますので定期的な水ワックスが可能になっています。」

----清掃面の話でいうと、普通の専用路線の電車と比べて汚れやすいなどありますか?

今村さん「専用軌道の状況がわかっていないので完全に比較できているわけではありませんが、路面軌道で車体が地面から近いという特徴があります。そのせいで、どうしても雨の次の日は床下が泥跳ねで汚れることはありますね。また、台車のフレームが軽量化の為にパイプ状になっていますので、それが原因で台車の中に泥がいっぱいつまることも多いです。他には汚れとは違いますが、掃除をしてそこに塗料を塗って錆びないように気をつけています。」

----錆び対策といえば、路面走行の電車には、基本的に塗装がされているんですよね?

今村さん「そうですね。専用路線の電車で見られるような塗装がなく、素材そのままというものはありません。」

----そうですか、なるほど。ちなみに、今日整備などされている車両はありますか?

今村さん「今日もいくつかやっています。全般検査は、8年に1回、重要部検査は4年に1回、月検査は2ヶ月に1回、交番検査を10日に1回実施しています。」

2019_0220_0723.jpgタイヤの加工はただ補修の意味だけでなく、乗り心地が良くするためにも行う。少しずつ計算をしてミリ単位の作業を行う。

----それは路面でも専用路線でも同じような検査を行っているのでしょうか?

今村さん「路面、専用路線ともに全般検査、重要部検査、月検などは法令で定められていますが、交番検査は自社で整備心得を作り各社それぞれ行っています。運転規則の中に細則を作って運用するということになります。それに従って整備をして、故障や事故が起こらないようにしています。人命をお預かりしますからね。
路面電車は専用軌道のものと比べると軽いですが、それでも1台が17トンくらいあります。それくらいの重さのものが、一般の自動車と一緒に道路を走っていますので、故障しているから仕方がないというような言い訳は通用しません。何かあっても停車してしまわないように日々整備や点検をしています。
みなさんに信用して乗っていただいていますので、その信頼に応えるためにも丁寧に行っています。万が一路上故障があっても、すぐに対応できるような体制にしています。」

----例えば、動けなくなった場合はけん引車みたいなものを出すんでしょうか?

今村さん「いえ、だいたい東山本線(岡山駅から岡山市中区にあるおかでんミュージアムを結ぶ路線)でラッシュだと3分に1本、日中だと5分に1本走っていますので、すぐ後ろに後続車がきます。そのため運転手がいろいろと復旧を試みて、どうしても動かない場合のみ連結して押して走るということになります。その場合は、お客様には申し訳ないのですが、一旦降りて頂いて、後ろの車両に乗っていただくということになります。ただ、そんなことは滅多にあるものではありません。」

----そのためにここでの仕事があるということですものね。それでは、もう少し細かくこの工場の1日はどういう流れで仕事されているか教えていただけますでしょうか?

2019_0220_0583.jpgこちらは機械部分を全て分解して点検を行っている。オーバーホールは、最後のパーツになるまで分解し、傷や故障のない部品を組み合わせ新しいものを作りあげる。

今村さん「日々、さまざまな検査を行うのですが、それについてお話ししますと、全般検査と重要部検査を合わせて、年間7、8両実施しています。月検査は3ヶ月以内にする必要があり、現在、管理の都合で、2ヶ月に1回実施、全車両を検査します。そして、さらに10日を目安に全車両交番検査という検査もやります。交番検査は簡易な検査で、その次に月検査、そして全般検査という非常に細かな部分までを見る検査と分かれています。何かしらの検査を毎日担当ごとに分かれて行います。
例えば、9200形の場合、ダイヤを公表していますので、休みの日は火曜日、金曜日となります。ですので、9200形であれば、交番検査を2週間に1回行います。交番検査は各社のルールで行いますので、弊社の9200形は、10日ではなく2週間に1度行っています。本来なら1週間に1回は清掃の日、その次の日は検査の日という形で行いたいのですが、現在はそうはなっていません。」

----時期によって検査は検査でもいろんな検査が入ってきたり、逆に違う作業があったりと常にルーティーンではないわけですね。それでは、朝は決まって何かをするという流れのようなものはありますか?

今村さん「午前中は交番検査、月検査があればそれを行います。その合間に全般検査、重要部検査をやるという流れです。うちは車両担当、車両電気担当合わせて6人でやっていますので、それぞれがその専門という形ではやっていません。ですので、1日で終わる検査を主として、日々の業務を行っています。」

----それでは、午後はいかがでしょうか?

今村さん「全般検査、重要部検査があればそれを引き続きやります。なければ新しく部品を作ったりしています。全般検査や重要部検査は台車をバラバラにしますので、ピンなどの肉盛をしたり加工したり、タイヤを削ったりとかしています。」

----ピンの肉盛というのは?

今村さん「言い方が難しいのですが、可動部などボルトで絞めても、ある程度余裕が出てしまうような箇所を、ピンとブッシュという部品などを使用して肉盛溶接して補強するようなことです。」

2019_0220_0771.jpg最近の車両は床が下がっているため、こうして床下からの整備は減っている。岡山電気軌道でも9200形からは、電気制止する際にも、屋根上からの作業となる。

----改めて作りなおすということですか?

今村さん「日々運行していく中でタイヤでもなんでも摩耗していきます。そして、どの程度すり減ったら、補修するのかというのを細則というルールで定めています。そこで肉盛して限界値内に収めるということです。削れている部分を溶接で盛ったり、パンタグラフ(電車や電気機関車の屋根にとりつけて架線の電流を導き入れる装置*写真最下)を作ったりですね。
弊社のパンタグラフが岡電式というか特殊なんです。ほとんどはバネの力で押し上げるんですけど、あれは重りの力を利用して上げているんですよ。下側に太い丸棒みたいなものがあるのですが、それが重りになり重力で下がることによって、スライダーという上についているものが押し上げられるのです。」

----同じ形式を使われている電鉄はどちらかありますでしょうか?

今村さん「いえ、これは弊社だけですね。数代前の社長の石津 龍輔が考えたものになります。」

----そうでしたか! なかなか珍しいものなんですね。

今村さん「購入すると100万円は越えるので、壊れても2人で2日あれば作り直します。」

----でも鉄道好きの方はこれを写真に撮りに来るんじゃないですか?

今村さん「撮りに来られますし、皆さんよくご存じです。このタイプのパンタグラフは日本では他に見たことはないです。ですが、ちょっとしたデメリットもありまして、重りの力なのでレスポンスが悪いんです。バネだと反発の力がありますので機敏なんですが、この方式はジワーっと上がります。高さによってどうしてもより強い押し上げ力が必要になります。本来なら均等に維持しないといけないのに、高くなったり低くなったりということが発生したりはします。
仕事の流れの話に戻しますと、それから室内の傷みがあった場合、順番にやっていくと、5年ごとに更新するとしても全ての車両を整備・点検するのに100年かかりますので、何かのついでにやってしまいます。例えば、クーラー点検のついでに床整備もやるといった、仕事のやり方になっています。」

----なるほど。検査からパーツの組み立てなど細かい作業が非常に多いですね。今日はお忙しいところどうもありがとうございました。

2019_0220_0538.jpg岡山電気軌道のみが使用している石津式パンタグラフの図。

2019_0220_0759.jpgこちらが実際のパンタグラフ。よく見るとバネ式でないことがわかる。

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