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第7回 甲子園歴史館のお仕事

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第7回 甲子園歴史館のお仕事

  • 阪神電車

通勤、通学、おでかけと日々使う電車にバス。毎日のように使っているけど詳しくは知らない、そんな交通機関の知られざる舞台裏のお仕事をお伝えするこのコーナー。第7回は、阪神電車とは切っても切れない関係にある阪神甲子園球場。そこに約8年前のリニューアルにあわせて新たに新設された甲子園歴史館で、歴史館担当の浅沼さん、室井さんのお仕事をご紹介します。展示もさることながら、実は野球に詳しくなくても盛り上がれる、そんな内容です。

——まずは、この施設で働かれているみなさんの所属について教えてください。

浅沼さん「阪神甲子園球場は阪神電鉄が経営する施設ですので、私たちは阪神電鉄の社員ということになります。阪神電鉄の中でも甲子園事業部という部署に所属しており、私たちは甲子園歴史館を担当しています」

——電鉄とひとくちに言っても、かなり幅広く配属があるわけですね。

浅沼さん「そうですね、異動で私が阪神電鉄の広報や総務に行くということもないわけではありませんし、子会社に出向するケースもあります」

——本日この甲子園歴史館のお仕事について、お伺いするわけですが、室井さんは学芸員の資格もお持ちだと聞きましたが。

浅沼さん「そうなんです。彼はこの甲子園で歴史館の仕事をするために阪神甲子園球場が直接採用した社員になります。ですので、彼に限っては職場が変わることはありません」

展示品の解説をする室井さん。こちらは、全国高等学校野球選手権大会の初代優勝旗。100年前のもので近づくとつぎはぎの多さに驚く
ものの、保存状態は良好。高校野球に興味がなくともその歴史に見とれてしまう一品。

——なるほど。室井さんは歴史館担当として働かれて何年になりますか?

室井さん「4年目になります。ここでは展示品の収集・管理の仕事をしています。そして、企画展を考えたりというのが、主な仕事です。後は、展示のために必要な館内の電球の交換やその在庫の管理といった細かな仕事も担当しています」

——具体的に収集というのは、どういうことを?

室井さん「そうですね。例えば、企画展で選手や監督という特定の人物にクローズアップしたいと考えたときに、ご本人に直接交渉をして私物をお借りしたりそういったことをします」
浅沼さん「本人といっても、連絡先が分かることが少ないので、公益財団法人日本高等学校野球連盟(以下:高野連)に連絡を入れてから当該の高校と話をして、やりとりをさせていただいています。こういった連絡の前にまずは企画展のテーマを決めないといけませんので、年4回、企画展で何をやるかを考えるのが大きな仕事です。基本的に、春は選抜高等学校野球大会があるので、それに向けて企画展を考えます。そこで、何がテーマになるのかを今まさに考えています。テーマが決まれば、収蔵品の中でテーマに沿ったものがあるのか、また、なければ展示にふさわしいものはないか、といったことを過去の試合やデータから洗い出して、借りる、もしくは寄贈いただく準備をしていきます」

館内入ってすぐの展示がこちら。手前のユニフォームは、松井秀喜選手が星稜高校時代に着用していたもの。奥は、松坂大輔選手が横浜高校時代に着用していたもの。また、足元を見ると甲子園のバッターボックスが土と共に再現されている。

——そのテーマというのは、どうところから考えていくんでしょうか?

室井さん「これまで、逆転サヨナラの試合に着目した特集などいろいろなテーマで開催しましたが、例えば、2017年夏の全国高等学校野球選手権大会では、朝日新聞の高校野球連載記事「あの夏」とのコラボ企画としての展示を行いました。この連載自体が、夏の大会でも有名な試合ばかりではなく、スポットの当たりにくい試合などの話もありましたので、その試合にまつわるエピソードも展示を通して紹介するような工夫をさせていただきました」

——そういった有名でない試合のエピソードはどうやって調べていくんでしょう?

室井さん「日頃の勉強です」

——そうですよね。でもなかなか大変なお仕事ですね。試合数も多いですし。

浅沼さん「阪神タイガースにたとえると分かりやすいのですが、最も簡単なのは優勝特集なんです。これは鉄板の企画です。とは言え、やはりさまざまな内容でお見せするのが、我々の仕事の見せ所ですので、一昨年は、高山選手が新人王に選ばれそうでしたので、それに合わせて歴代の新人王に注目した展示にしてみたりしました。ですので、常にいろんな情報を仕入れて、アイデア出しをしておかないといけません。これまでいろんな特集展示をしましたが、高校野球ではなかなか一般の人が目にしない監督のノートとか、そういったものもメディアとのコラボという形で、お借りできたりするものもありますので、珍しい展示品との出合いというのもままあります」

——スポーツというと試合という場しか、基本的には見ませんので、展示ではそこに至るエピソードや裏の部分が見えてくるのはいいですね。ちなみに、有名選手であれば、記録だけでなくそれにまつわる品も残ってそうですが、注目され難いものも結構保存などはされているんでしょうか?

浅沼さん「手元に何も残っていないというのもあります。でも、その逆で「こういうものがありますよ」と言って保管されているものを出していただける高校もあります。夏の大会の第1回大会第1試合で使用されたグローブとボールは、100年前のものになりますが、木の箱に入れられ鳥取西高校(旧制鳥取中学)が学校所有として保存されていました」

——それはかなり貴重ですね。そういったやりとりが具体的な業務内容になると。

浅沼さん「そうですね。後は、展示品には寄贈と寄託という2つのパターンがあります。寄託のものは、期間が来るとお返ししたり、延長のお願いをしたりと、所有者の方に連絡させていただいています。また、高校野球では毎年、記録が出ますので、まず、すべての出場校に直接挨拶をし、記録の出た高校には、試合終了後にお話をさせていただき、記録にまつわるものなどをお借りする手続きをさせてもらっています」

名勝負を讃えた展示では、ユニフォームのほか、選手が実際に使っていたグローブ、当時の映像が見られる。道具をよく見ると、年代によって品質や流行りなどの変化が分かる。そういった鑑賞を「高校球児たちはよくしています」と室井さん。

収蔵庫にて、検品を。「すべての展示品は、美術品と同じく手袋をつけて大切に取り扱うのが基本」と室井さん。

——さきほど、逆転サヨナラの試合を特集されたこともあった、ということを仰っていました。しかし、すべてを記憶している訳ではないと思うのですが、それはどのように調べるのでしょうか?

浅沼さん「基本的には大会史など、主催者の公式な記録から調べることが多いです」

——とは言え、場当たり的に約100年分を調べるわけにもいかないと思いますが? 生き字引的な方がおられると?

浅沼さん「そうですね。室井はそういったところも担って貰っていまして、野球マニア的な一面もありますね」

——やはりお詳しいんですね!

1983年まで使われていた選手名が書かれたボード。独特なフォントで一字一字丁寧に書かれていた。

こちらが記録を達成した人に関する展示を行うコーナー。この中には、広陵・中村奨成選手が記録を出したときのバットも飾られている。

室井さん「野球をしていたのは中学生までなんですが、それ以前に3、4歳くらいから野球が好きでずっと観ていたんです。埼玉県所沢市出身なんですが、清原が西武ライオンズにいた当時から球場に通っていました(笑)」

——それは、長いですね~。

室井さん「大学では、ずっと歴史学の勉強をしていまして、学芸員の資格も取って。高校野球はテレビで見て、大学野球も社会人野球も好きで、球場に行って観ていました。大学と神宮球場が近かったので、しょっちゅう観に行ってました」

——じゃあ、今はまさに天職ですね。

室井さん「そうですね(笑)。好きなことを仕事にできてますし」

——今もプライベートでも観戦したり?

室井さん「あります、あります。時間があったら野球を観に行くことが多いです。職場で質問される機会も多いので、一通り何を聞かれても答えられるようにするくらいに、試合は観ています。記録に残したり、なにかメモを取ったりする様なことはありませんが、本はかなり所有していると思います」

——それは、どのような本を?

室井さん「過去の野球関連の書籍やデータブックなどですね」

——試合を見る上で何か注目しているポイントはあるんでしょうか?

室井さん「試合そのものに着目すると、結局データを展示するということになりますので、実はあまり注視するポイントというのはありません。それよりも、記録が出たときのコメントで、打ち方などの話から、そのとき使用していたバットのバット痕、ボールがどのようにその金属バットなどに当たったのかを示すもの、そういうものが実際にないのかというのを、後からですが注目したりすることはありますし、バットだけでなく他の道具の傷とか、そういったものに気を遣ってきちんと見えるように展示したり、そういうところは注目のポイントです。そのために、その瞬間に繋がる背景を知っておくために試合は見ます」

——試合の展開、あらすじをしっかりと抑えておくというようなイメージでしょうか?

室井さん「まさにそういう感じです。なかなかテーマを決めるというのは難しいのですが、例えば選手の伝記的な書籍を読み、そこからまた違う資料を見て数珠つなぎ的に資料を読み、アイデア出しに繋げるということは日常的に行っています。それが展示に活用できることもあるんですが、結構時間がかかりますね(笑)」

——そうして決められた企画ですので、すべて想い出があると思いますが、その中でも特にというのはありますか?

室井さん「そうですね。高校野球の21世紀枠の特集をしたことがあったのですが、そのときはなかなか歴史館でも取り上げたことのない高校を紹介する機会になりますので、貴重な展示だったと思いますし、反響も良かったと思います。当時のユニフォームを借りてきたりするのとは別に、21世紀枠の出場校は初出場が多いので、出場記念に地元の方々が記念品を作られることが多く、その記念品などはなかなかその地域以外に出て来ないものなので、そういうものが集められたのは、おもしろい内容になったと思います。彦根東高校は、地元の職人さんが甲子園出場の記念に制作した漆塗りのバットをお持ちだったりしました」

——ただの展示に留まらず、ローカリティの話も盛り込めて、良かったわけですね。

室井さん「そうなんです」

——好きなものに触れられるいい仕事をされていますね。

室井さん「時間も限られている中、展示品を丁寧に扱って、チェックや確認、そのほか、企画を考えるというのは、しんどいところではあって、難しい仕事なんですが、野球ファンのみなさんとの触れ合いが新鮮だったりもしますので、好きなものに常に触れていますのでやりがいもあり、充実しています。生まれ育った所沢からこちらに来てみて、星野元監督が「阪神タイガースは関西の文化財だ」というひと言が、こちらに来てよく分かるようになりましたね」

甲子園歴史館
交通 阪神電車 甲子園駅下車徒歩約5分
住所 兵庫県西宮市甲子園町1-82
電話番号 0798-49-4509
営業時間 10:00~18:00(11月から2月は、10:00~17:00)
※入館は閉館時間の30分前まで
※高校野球開催時など催し物により変動
定休日 月曜(試合開催日、祝日を除く)
入館料 一般600円、子ども4歳~中学生 300円 団体料金あり
http://www.koshien-rekishikan.com

阪神電車
http://rail.hanshin.co.jp

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